2023年4月に施行された法改正により、今までは原則現金のみと定められていた賃金の支払いに「デジタル給与」での支払いが認められるようになりました。
このことから、以下のような疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「デジタル給与とは?」
「なぜデジタル給与が導入されるようになったのか?」
「勤務先の給与がデジタル払いになる場合、注意すべき点はあるのだろうか?」
この記事では、デジタル給与の内容と導入の背景について、またデジタル給与のメリット、デメリットについて解説します。デジタル給与の今後と課題について理解できるでしょう。
目次
デジタル給与とは
デジタル給与(給与デジタル払いシステム)とは、銀行口座への口座振込で給与を受け取るのではなく、主に「◯◯Pay」などの資金移動業者の口座を利用したデジタルマネー(電子マネー)で受け取る仕組みをいいます。
制度導入に向けて、厚生労働省が中心となって検討を進め、2023年の4月よりデジタル給与制度が解禁となりました。
現在は、資金移動業者がデジタル給与の取り扱いを行なう申請手続きの受付がスタートしています。
デジタル給与導入の理由
法改正によってデジタル給与が導入される背景には、コロナ禍の非接触型の支払い方法としてキャッシュレス決済の普及が急速に拡大したことが挙げられます。
また、海外からの人材受け入れや、国際社会における経済活性促進も理由の一つといえます。
キャッシュレス決済の利用率増加
近年、コロナ感染予防の対策としてキャッシュレス決済の利用が、急速に伸びました。
経済産業省が発表したデータによると2022年(令和4年)のキャッシュレス決済比率は36.0%、決済額は初の100兆円超えに拡大しています。なお、海外の主要国のキャッシュレス決済普及率は約40~60%という数字です。
現在はあらゆる支払いにデジタル決済システムの導入が広がっており、国際社会における国の事業として、また経済活性化促進の一つとして、金融システムの拡大が進められています。
参照:経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
外国人労働者受け入れの拡充対応
デジタル給与制度導入には、年々増加している海外からの外国人労働者の受け入れ、対応措置の目的もあります。外国人労働者は日本の銀行口座を持たない、もしくは口座開設に時間がかかるケースが多く、デジタル給与制度が利用できるようになると、スマートフォン1台でスムーズに給与の受け取りができるでしょう。
また、給与の支払いも日払いや週払いなどニーズに対応できるため、短期的な労働期間の場合も面倒な手続きがなく賃金支払いが可能になります。
支払いの多様性認知
「〇〇Pay」とよばれる多くの資金移動業者が銀行と異なる点は、他の事業との兼業が認められていることです。例えば「LINE Pay」は、SNSとの連携で友人に送金ができます。また、「楽天Pay」や「Pay Pay」は、それぞれ楽天銀行やPayPay銀行、スマートフォンのプラットフォームとの連携サービスも展開しています。
個々の利用サービスに応じた支払いの多様性が拡大していることから、デジタル給与のニーズもまた、期待されているといえるでしょう。
調査により一定数のニーズを予想
厚生労働省の調査によると、デジタル給与がスタートした場合、約4割の利用者がデジタル払いを「検討する」と回答しました。それにより一定数のニーズが予想できることも導入の背景にあるといえます。
財布を持たず、スマートフォン1つで支払いを済ませる人が増えてきている状況から、デジタル給与の普及が、期待できると判断されたことになります。
参照:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」
デジタル給与のメリット
デジタル給与のメリットについて企業側と従業員側でみてみましょう。
企業側
企業側のメリットは、振込手数料負担の軽減による企業のイメージアップです。
振込手数料が安くなる可能性
資金移動業者の口座への送金手数料は、銀行口座への振込手数料より安い設定となっているため、従業員への給与支払いの際に、企業が毎月負担している振込手数料を、軽減させることができます。
1回の振込手数料は少額であっても、従業員の人数や1年で12回+賞与と年間の負担は大きく、手数料負担が減らせるのは、企業にとって大きなメリットといえるでしょう。
企業イメージアップ
銀行振込とデジタル給与支払いの対応があることで、銀行口座を持たない従業員も給与を受け取りやすくなります。
給与の受け取り方法に選択肢があるのは、企業に対するイメージアップにつながり、雇用の幅も広がるでしょう。
従業員側
従業員側の主なメリットには、資金移動業者の口座にチャージする手間がなくなることが挙げられます。
資金移動(チャージ)が不要
これまではキャッシュレス決済を利用するために、給与口座から現金を引き出し、資金移動業者の口座へチャージする必要がありました。
デジタル給与が導入された場合、チャージの手間がかからなくなるうえ、時間外の出金の際にかかる手数料も不要になります。
銀行口座を持たない従業員も給与受け取りが可能
外国籍の労働者は、銀行口座の開設手続きの審査に時間がかかるケースが多く、その期間の給与の受け取りに課題がありました。
デジタル給与が導入された場合、スムーズに給与支払いが完了するため、給与の受け取り方法の心配がなくなります。
福利厚生の一環事業
QRコード決済や、電子マネー決済などのキャッシュレス決済システムは、利用者拡大を目的として使用額に応じてポイント還元やキャッシュバックのシステムを導入しています。
企業がデジタル給与を導入することにより、従業員はキャッシュバックや、ポイント還元を受け取ることができます。企業の側から見ると、福利厚生の一環事業といえるでしょう。
デジタル給与のデメリット
企業側と従業員側双方から、デジタル給与のデメリットについて解説します。
企業側
企業側のデメリットとして、複数の支払い方法への対応と資金移動業者が破綻したときの保護制度について懸念されます。
デジタル給与と銀行振込の二重作業発生
デジタル給与の支払いには、多くの従業員が給与の一部のみデジタル給与で受け取ることを希望すると予想され、銀行振込とデジタル給与の2通りで給与支払いが発生することになります。
企業側は、1人の従業員に対して、複数の方法で給与支払いを行なうことになるため、二重作業が発生し、負担は多くなるでしょう。
利用者保護制度が未整備
資金移動業者は、銀行の「預金保護制度」の対象から外れているため、万が一資金移動業者が破綻した際の払い戻しに一定期間かかることが懸念されています。
また、不正利用が発覚した場合の措置として補償内容が各業者によって異なるといったリスクもあります。
従業員側
従業員側のデメリットには、希望の資金移動業者が利用できるとは限らないことや、現時点で国内の支払いが、デジタル未対応な場合も多くあることが挙げられます。
希望の資金移動業者が使用できない恐れ
デジタル給与での受け取りに使われる資金移動業者は、企業が労使協定で締結した業者で決まるため、従業員が希望する資金移動業者が利用できない場合もあるでしょう。
公共料金支払い未対応
家賃や公共料金の支払いは銀行の口座引き落としやクレジットカード決済がほとんどで、デジタル決済にいまだ未対応なところも多くあります。そのため、従業員はデジタル給与での全額支払いを希望せず、一部のみの対応にとどまる結果が予想されます。
まとめ
2023年に解禁された法改正による「デジタル給与」について、導入の背景や企業側と従業員側両方からのメリット、デメリットについて解説しました。
日本でも、キャッシュレス決済が全体の36%にまで拡大しています。今後もより一層の拡大が予想されるなか、ご自身の勤務先でデジタル給与の導入がスタートした場合、この記事の注意すべきポイントなどを確認し、社会情勢を見極めながら制度の利用を判断するようにしましょう。