近年、若手社員の育成や組織の活性化を目的としてリバースメンタリングを導入する企業が増えています。
古くから年功序列制度に重きを置いてきた日本では、まだあまり知られていないのが実情です。本記事では、概要やメリットだけでなく、実施の流れやメンターに選出された際の注意点まで解説します。
目次
リバースメンタリングとは?
リバースメンタリングは、若手社員がメンターとなり、メンティーである上司や先輩社員に指導や助言を行なう教育支援制度です。主に組織の活性化やイノベーション創出を目的に導入されます。また若手社員の成長も期待できるため、人材育成手法の一つとして導入し、評価にも反映している企業もあります。
指導内容には、「先輩社員よりも若手社員がくわしい事柄」が取り上げられるケースが多いようです。最近では、デジタル技術の指導や育休・産休についての考え方などが採用されています。
リバースメンタリングが生まれた経緯
誕生のきっかけは、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEOであるジャック・ウェルチ氏だといわれています。ウェルチ氏自身、CEO時代に当時普及前だったインターネットの使い方を若手社員から学び、マネージャー層にも若手社員をメンターにして学ぶよう通達したそうです。この試みが成功したことから、他社にもリバースメンタリングの導入が拡大したとみられています。
メンター制度との違い
リバースメンタリングは、メンター制度と立場を逆転する(=リバース)ことから「逆メンター制度」とも呼ばれます。
メンター制度は、上司や先輩社員が若手社員の相談役となって行われる教育支援制度です。若手社員の離職防止や、早期活躍の促進が目的のため、多くの場合、業務面だけでなく、メンタル面やキャリア形成も含めた幅広い指導・助言が実施されます。
リバースメンタリングがもたらすメリット
リバースメンタリングは、導入企業と若手社員の双方にメリットをもたらす制度です。ここでは、それぞれにとっての利点を確認しておきましょう。
- 企業にとってのメリット
- 若手社員にとってのメリット
企業にとってのメリット
ベテラン社員が最新技術を学ぶ機会をつくれるだけでなく、若手社員の価値観や感覚に触れられる機会にもなるため、社員全体の視野拡大につながります。管理職層が若手社員の感じ方や思考の方向性を理解できれば、マネジメント力も向上するでしょう。
また、リバースメンタリングの実施をきっかけに、世代を超えたコミュニケーションの活性化も望めます。
若手社員にとってのメリット
入社してから数年間は、企業の一員として役に立てている実感を持てないまま働いているケースも少なくないでしょう。リバースメンタリングによって若手のうちから組織に役立つ実感を得られれば、早期に企業へ愛着心が生まれたり、モチベーションが向上したりすると考えられます。
さらに、世代の垣根を超えた交流によって誤解や認識のズレが減少すれば、組織のなかで自分の考えや気持ちを安心して発信できるようになるでしょう。結果、若手社員の心理的安全性も高まると期待されます。
リバースメンタリングの導入に向いている組織の特徴
リバースメンタリングは、年功序列制で上下関係がはっきりしていたり、社員の平均年齢が高かったりする、いわゆるヒエラルキー型組織で効果を発揮しやすい制度です。従来であれば若手が意見を発しにくい環境下で導入されることで、組織の硬直化を防ぐ手立てとなるでしょう。
また、ダイバーシティ(多様な人材の活用)を推進する企業でも、社員の相互理解・尊重や信頼関係構築の手段として役立ちます。
リバースメンタリングはどのように実施される?
リバースメンタリングは、実際にどのように行われるものなのでしょうか。ここでは、実施の流れを確認しておきましょう。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 1.目的が設定・共有される
- 2.メンター・メンティーが選出される
- 3.メンターへのオリエンテーションが実施される
- 4.人事部門によるフォローアップが行なわれる
①目的が設定・共有される
まずは、人事部門で「どのような課題を解決したいのか」「どのような効果を得たいのか」などを考慮しながら実施目的を設定します。
目的が定まれば、メンターに期待する事柄やメンティーの心がけ、実施方法などと併せて、実施部門やステークホルダー(企業の利害関係者)に共有されます。
②メンター・メンティーが選出される
人選も人事部門によって行われることが多いでしょう。テーマや個人の特性、スキル、相性などを考慮しながら、メンターとメンティーのマッチングが実施されます。
ほとんどのケースでは、直属の上司・部下の組み合わせになることはありません。すでに関係性が構築されていると考えられるためです。指導しにくい(指導を受け入れにくい)と判断され、避けられる傾向にあります。
③メンターへのオリエンテーションが実施される
メンターとメンティーが選出されたあと、事前にメンターへのオリエンテーションが実施されます。主に人事担当者によって行なわれます。
オリエンテーションの目的は、メンターの不安払しょくや心構えの修得です。テーマやメンターのスキルに合わせて、面談や研修といったさまざまな方法のなかから適したスタイルが採用されます。
④人事部門によるフォローアップが行なわれる
リバースメンタリングは、「やれば終わり」ではありません。目的を設定して行なわれているため、実施後にも、メンター・メンティー双方へ人事部門のフォローアップが入ります。
テーマや内容にもよりますが、実施によって起こる変化に対応するため、フォローアップは数回にわたって定期的に行なわれるケースが多いでしょう。
リバースメンタリングのメンターに選出された際に留意したいこと
最後に、メンターに選出された際に留意したい事項を紹介します。
留意点は、以下の3つです。
- 不安点があれば事前に人事部門に相談する
- メンティーへの敬意を忘れない
- 成果の振り返りを行う
不安点があれば事前に人事部門に相談する
リバースメンタリングでは、メンティーとなるのは上司や先輩にあたる社員たちです。目上の人物に向かって指導・助言を行なう制度であるため、メンターが心理的負担を感じるのが当然のことでしょう。
もちろん、実施担当者である人事部門もメンターの負担は把握しており、細心の注意を払っています。不安点があれば、遠慮せずに事前に人事部門へ伝えましょう。
メンティーへの敬意を忘れない
リバースメンタリングの実施中は若手社員が指導的立場となるものの、相手は目上の人で、人生においても社会人としても先輩であることに変わりはありません。
今置かれているポジションがどうであろうと、人に自分の意見を聞いてもらうためには、相手の立場や価値観を尊重することが重要です。実施中も、メンティーへの敬意を忘れずに接するよう心がけてください。
成果の振り返りを行う
「実施したら終わり」ではなく、必ず振り返りを行なうようにしましょう。さらに自分ひとりで振り返るのではなく、反省点や学びを関係者全員で共有すれば、組織全体や今後に活かせて、成果をより大きなものへと発展させられます。
メンティーの振り返りからは、メンターとしての自分の課題や問題点も見えてくるかもしれません。互いに意見を出し合いしながら、次回へとつなげていければ理想的です。
まとめ
リバースメンタリングとは、若手社員が指導的立場となって上司や先輩社員に助言を行なう教育支援制度です。若手社員にとっても成長の機会となるため、人材育成手法の一つとして導入する企業も増えてきました。
メンターに選ばれた際には、はじめは不安や緊張を感じて当然です。しかし、世代や社会的ポジションを越えて意見を交える経験は、若手社員同士の交流では得られない気付きや発見をもたらしてくれるでしょう。これをチャンスととらえ、人事部門や実施担当者にしっかりと相談しながら、前向きにチャレンジしていきましょう。