コーピングとは、私たちがストレスや困難な状況に直面した際に行う、さまざまな心理的・行動的な対処方法のことです。人々は日常生活や人間関係、職場などでさまざまなストレスやプレッシャーに直面することがあり、コーピングはストレスを緩和するために重要なスキルです。
本記事では、コーピング概要や誰でも簡単に取り入れられる効果的な実践の仕方を解説します。今の職場環境に強いストレスを感じている方やより良い職場への転職をお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
コーピングとは
コーピングとは、メンタルヘルスに関する専門用語であり、ストレスに対処するための行動を意味します。「問題に対処する、対応する」という意味を持つ、英語の「cope」から派生しました。
コーピングは、ストレスとどのように向き合うかという方向性で解決を図る手法です。ストレスの根本的な原因を解消するのはもちろんのこと、ストレスによる心的負担を減らすことを目的に幅広いビジネスシーンで活用されています。
コーピングが注目される背景とは
コーピングが多くの企業やビジネスパーソンから注目されるようになった背景には、現代社会の複雑化やストレスの増加に関連して、心の健康の重要性に対する認識が高まっていることが挙げられます。
厚生労働省が平成30年に発表した「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、仕事で強いストレスを感じた経験があると回答した人の割合は、全体の58.0%に上っており、半数以上の人たちがストレスを感じた経験があると回答しています。
この結果から、仕事をするうえでストレス対策がいかに重要かがわかるはずです。このように、コーピングは、ストレス・マネジメントの一つとして認知されてきており、心身の病の原因となるストレスに対処する方法として注目されています。
コーピングの種類
コーピングには、大きく分けて次の2つのタイプが存在します。
- 問題焦点型
- 情動焦点型
これらの特徴や具体例、そして実践する際の注意点をご紹介しましょう。
問題焦点型
問題焦点型のコーピングは、ストレスを引き起こす問題に対して、自分自身ができることを考え、解決策を見つけることでストレスを軽減する方法です。ストレスの原因を探って、原因や問題を解消することでストレスを軽減します。
問題焦点型の具体例
問題焦点型のコーピングについて、具体例をご紹介します。
- 人間関係や環境を変化させて原因となる物事から距離を置く
- 問題が発生した際に、同僚や上司、家族や友人など、身近な人に相談する
- 問題の解決策を自分で調べて実践する
例えば、人前で話すのが苦手で大きなストレスを感じてしまう人が「スキルアップにつながる」ととらえて、プレゼンや商談に備えてトークスキルを高めることなどが挙げられます。
問題の解決方法を自ら調べたり、第三者からアドバイスをもらったりすることはもちろん、担当する業務内容を変更してもらうなども問題焦点型の対処法の一つです。
問題焦点型のデメリット
問題焦点型のコーピングは、原因や問題を解決すべく無理に考え方を改めようとすることで、心が疲弊しやすくなります。また、対処法がわかっているのに実行できないこと自体がストレスになるケースも少なくありません。
情動焦点型
情動焦点型のコーピングとは、困難やストレスに対処する際に、ストレスの原因となっている問題そのものにフォーカスするのではなく、おもに自分の感情やとらえ方に重きを置いてストレスをコントロールする方法です。
情動焦点型の具体例
情動焦点型のコーピングには、次のような具体例があります。
- 友人や同僚にありのままの気持ちを打ち明けてガス抜きする
- ヨガ、運動、アロマテラピーなど、自分に合ったリラックス方法を実践する
- 趣味や旅行などでストレスを発散させる
例えば、思うように仕事が進まずに悩んでいる場合でも「スキルアップのためのいい機会だ」と考えを改めたり、「少しずつでも前進すればいい」とポジティブにとらえたりすることで、心的ストレスの緩和が期待できます。
前向きな気持ちに切り替えやすくするために、一時的に頭を悩ませている問題や人物から離れるなどして物理的な距離を持つよう意識しましょう。
情動焦点型のデメリット
情動焦点型のコーピングは自分の感情やとらえ方にアプローチする方法のため、問題の根本的な解決は期待できません。環境が変わらない限り、ストレスと常に向き合う必要がある点はデメリットといえるでしょう。
また、感情を言葉にして表現することで、かえってストレスを感じてしまう方も少なくありません。自分の感情と向き合うことが困難な状況下では、情動焦点型のコーピングで解決できない場合も考えられます。
効果的なコーピングの実践方法
ストレス社会を生き抜くために習得したいコーピングスキルですが、ビジネスシーンではどのようにトレーニングすればいいのでしょう。効果的にコーピングを実践する具体例は次のとおりです。
- コーピングリストを作成する
- ストレスを感じた際の自分をモニタリングをする
- コーピングを実践してストレスが減少したかを判断する
上記の具体例を参考にしながら、誰でも簡単に取り入れられるコーピングの実践方法をご紹介します。
コーピングリストの作成
コーピングリストとは、ストレスに直面したときに効果的な行動や対策をリスト化したものです。独自のコーピングリストを作成することで、ストレスの種類やストレスが発生した際の環境や状況に合わせて、最適な行動が取れるでしょう。
コーピングリストの作成方法は次のとおりです。
- 1. ストレスに感じることや困難な状況を洗い出し、リスティングする
- 2. リスティングした内容に対する対策や気晴らし方法を思いつくままに書き出す
- 3. 実際に行動する
- 4. 行動後に、どの対処方法が効果的だったかを検証する
対処法をただリスティングするだけでなく、実践して効果があったかを検証することが重要です。対処法をリストにして可視化することで、日頃からストレス対策を意識して行動しやすくなるでしょう。
実際に感じたストレスを客観視する
大きなストレスやイライラを感じたときに、自分がどのように感じたか、そしてどのようにリアクションしたかなどを客観的にモニタリングすることが重要です。
ストレスを感じて手が震えたなど、体がどのように反応したか、またどの程度のストレスであったかを数値化して表現するなどして、客観視してみましょう。
ストレスを感じた際は、イライラや悲しみなどの感情に左右されてしまいがちです。しかし自分が何を感じているかを客観的に把握しておくと、ストレスに直面したときに冷静に対処できるようになります。
コーピングを実践してストレスが減少したかを判断する
モニタリングを実施して、実際にストレスがどの程度軽減したかをチェックすることも大切です。ストレスが緩和されている場合は、実践した対処法が効果的であったことを意味します。
実際に効果があった対処法は、その後も継続して活用してください。反対に、効果があまり感じられなかった場合は、違う対処法を実践したり考案したりしながら、コーピングリストの内容を検討していきましょう。
まとめ
厚生労働省が発表した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、2015年からは企業に対して「ストレスチェック」の実施を義務化しました。
企業に対して従業員の働きやすい環境づくりが求められていますが、個人でもストレスと上手に向き合う努力が必要です。ご紹介した効果的なコーピングの実践方法を参考にしながら、ストレス対処法を学んでいきましょう。