働き方改革の影響で長時間労働が問題視されるようになり、現在では、実際に残業削減を行なう会社も少なくありません。そこで問題となっているのが「持ち帰り残業」です。これにより、勤怠を切ってから自宅やカフェで仕事をする人が増えることで新たなリスクも懸念されています。
本記事では、持ち帰り残業のリスクと対策方法、そしてストレスマネジメントについてご紹介します。
目次
「持ち帰り残業」経験者はどのくらい?
実際に、持ち帰り残業の経験者はどのくらいいるのでしょうか。持ち帰り残業の実態を調べました。
社員の約3割が持ち帰り残業経験者
関東と関西の会社員20歳~64歳の方に実施したアンケートでは、約31%が持ち帰り残業をしたことが明らかになっています。つまり、約3人に1人が持ち帰り残業経験者です。さらに、約10%が定期的に持ち帰り残業をしていると回答しています。
この結果から、持ち帰り残業の実例は多く、常習化しているといえるでしょう。
参考:連合総合生活開発研究所『第34回勤労者短観―連合総研・第34回「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」調査報告書―』
持ち帰り残業となる範囲は?
持ち帰り残業をした業務の内容はどんなものでしょうか。
最大3つまで選択できるアンケートによれば、最も多い業務は「報告書や提案書の作成」で、持ち帰り残業を経験した人の66%となっています。2番目は「情報・書類の整理」で54%です。また、25%は雑務ではなく、主要な業務も持ち帰っていました。
参考:リクナビNEXT『ああ、家でも仕事だ…「持ち帰り業務」の哀しき実態』
なぜ持ち帰り残業が発生するのか
働く人にとってはリスクしかない持ち帰り残業ですが、それでも持ち帰らなければならなくなる「3つの原因」について解説します。
働き方改革による影響
厚生労働省は、働き過ぎを防ぐために働き方改革を進めています。
2020年4月からはすべての企業で残業時間の上限が規制され、違法残業の取り締まりが強化されました。さらに、2023年4月からは法定割増賃金率の引上げもすべての企業に適用されています。
働き方改革の影響により、残業削減の施策を進める企業は少なくありません。しかし、残業時間を規制されても業務量が変わらなければ、勤務時間内に仕事が終わらない社員も出てきます。これまで社内での残業でこなしていた仕事を、持ち帰り残業で対応している人もいるようです。
黙示の業務命令によるもの
会社や上司から持ち帰り残業を命じられていなくても、事実上、業務を遂行せざるをえない場合もあるでしょう。これを「黙示の業務命令」といいます。
例えば、勤務時間内に終わらないとわかる量の業務を与えられた場合や、定時間際に急ぎの作業を頼まれた場合は、黙示の業務命令に該当します。
管理監督者による長時間労働
働き方改革の影響で違法残業の取り締まりが強化されていますが、なかには例外もあります。「管理監督者」は、労働時間の上限が適用されないのです。管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者」のことです。
会社によっては、勤務時間内に終わらない部下の業務を、上司である管理監督者が引き継ぐこともあるようです。その結果、管理監督者に業務が集中し、長時間労働や持ち帰り残業につながります。
持ち帰り残業は違法?問題視される理由
持ち帰り残業が問題視される大きな理由として、会社が持ち帰り残業に対して残業代を払わないと違法になることが挙げられます。
労働基準法では、会社からの命令であれば、勤務時間外でも残業代を支払わなければならないと定めています。黙示の業務命令も同様です。
また、持ち帰り残業により発生するさまざまなリスクも、持ち帰り残業が問題視される理由の一つです。
持ち帰り残業により発生するリスクとは?
ここからは、持ち帰り残業によって発生する3つのリスクについて解説していきます。
情報漏えい
持ち帰り残業をするにあたって、仕事に必要な書類やデータを持ち出す場合も少なくないでしょう。仕事の情報を社外に持ち出すことで、紛失や盗難の危険性が出てきます。
また、パソコンやUSBメモリなどでデータを持ち出した場合は、フリーWi-Fiからデータを抜き取られる恐れもあります。
業務効率が悪くなる
勤務時間外に自宅やカフェなどで業務を行う方がいます。しかし、厳密にいえば自宅やカフェは仕事を行なう場所ではありません。業務に適した設備が整っていないうえに誘惑も多く、人によっては集中しづらい場所だといえるでしょう。
また、「定時までに終わらない仕事は持ち帰ればいい」という考えを持つことで、勤務時間内に業務を終わらせようとする気持ちが低下してしまう恐れもあります。その結果、さらに業務効率が低下するという悪循環に陥ってしまうケースもあるでしょう。
ストレスの発生、労災や損害賠償請求につながる
持ち帰り残業中のストレスが原因で体調を崩した場合や、持ち帰り残業中に死傷した場合は、労災や損害賠償の支払いが発生することがあります。実際に、持ち帰り残業が労災認定された例もあります。
持ち帰り残業の対策
持ち帰り残業によるリスクを回避するための対策を、3つご紹介します。
仕事量を把握する
持ち帰り残業をなくすためには、自分が担当している業務量の把握が大事です。
まずは、業務内容や業務スケジュール、タスクを見える化して、業務量を一目で把握できる仕組みをつくりましょう。業務内容や業務量、進捗具合を把握できれば、問題点の早期発見や改善につなげやすくなります。
業務効率化に取り組む
業務が勤務時間内に終われば、持ち帰り残業をする必要はありません。そのため、業務効率化も持ち帰り残業対策の一つといえます。
まずはToDoリストを作成し、各タスクに優先順位をつけてみましょう。やるべき仕事がわかれば、スケジュールを立てやすくなります。ショートカットキーや効率化アプリといったデジタルツールを導入するのもおすすめです。
報告・連絡・相談を増やす
日頃から報告・連絡・相談をこまめに行なうことも大事です。会社の同僚や上司とのコミュニケーションが密になれば、業務の進め方に関してのアドバイスをもらいやすくなります。また、ミスに早く気付くこともできるでしょう。
もし、業務量が多くて勤務時間内に終わらない場合、周りが気付いて業務を分担してくれることもあります。
今後必要となる「ストレスマネジメント」
「ストレスマネジメント」とはストレスと上手に向き合い、適切な対処法を実践することをいいます。
ストレスマネジメントが必要な理由
業務によってストレスを受けたときに、不安やイライラを感じた経験のある方もいるでしょう。場合によっては集中力の低下や物忘れ、ミスの発生につながることもあります。
ストレスにより業務に集中できない状態が続けば、やがて業務の停滞や遅延が起こり、持ち帰り残業にもつながりかねません。そのため、ストレスマネジメントによって業務中のストレスに対して適切に対処することが求められています。
ストレスマネジメントの方法
ストレスマネジメントの手法には「セルフモニタリング」と「ストレスコーピング」の2つがあります。
セルフモニタリングとは自分の状態を把握することです。自分が置かれている状況やストレスの原因、ストレスを感じたときの心身の反応を客観的に分析します。ストレスの原因や自分の状態が理解できるだけでも、気持ちに余裕を持つことができるでしょう。
ストレスコーピングとは、ストレスに対処することです。例えば、業務量が多すぎるのであれば業務量を調整する、同僚や上司に協力してもらうなどの方法が考えられるでしょう。ストレスの原因を直接解決するだけでなく、気晴らしをしてストレスを受けた心身を休めることもストレスコーピングに当たります。
持ち帰り残業が回避できなかったら
持ち帰り残業の対策やストレスマネジメントを行っても、持ち帰り残業が回避できないケースもあるかもしれません。そんなときは転職も一つの手段です。
今の会社は、もしかしたら労働環境があなたに合っていないのかもしれません。会社全体で残業が多い場合は、会社の体制が整っていない場合もあります。同じ業種や職種でも、会社が変われば業務量や効率は変わるので、転職で自分が健やかに過ごせる環境を探してみましょう。
まとめ
持ち帰り残業は、自身の健康面にも会社にとっても良いことではありません。
持ち帰り残業対策やストレスマネジメントを実施し、それでも改善しなければ転職を検討するのもよいでしょう。