インボイス制度は、すべての事業主に深く関係する新制度ですが、SNSなどでは賛否両論の声が多く上がっています。
現在の自身の立ち位置をよく理解したうえで制度に合わせた対策を取れるように、制度の内容を熟知しておくことが重要です。
導入時に間に合うように対応しなかった場合、思わぬ損失を被る危険性がありますので早めの対応が求められます。
この記事では、インボイス制度の内容や導入時に必要な対策についてわかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
「インボイス」とは?
インボイスとは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるための書類やデータを指します。
インボイス制度導入後、消費税を納付する際に仕入先がインボイスを発行できない場合、仕入税額控除の対象外となります。
インボイスは、販売先に代わって、自社で消費税を負担する旨を明示する証書なのです。
インボイスの記載事項
- 発行者の氏名・名称
- 登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目かどうか)
- 税率ごとに区分した対価の合計額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 受領者の氏名または名称
「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税額」は制度導入前までは記入する必要がなかった項目です。インボイス導入後は、必須項目となりますので事前に確認しておくことをおすすめします。
「インボイス制度」とは?
インボイス制度とは、取引内容や消費税額などの記載用件を満たす請求書や納品書の交付・保存に関するルールです。正式名称は「適格請求書等保存方式」といい、2023年10月から導入される見込みです。
インボイス制度の目的は、複数税率制度のもとで正確な消費税率と消費税額を把握し、制度に則って納税してもらうためです。
ただし、インボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者に登録している業者が対象になります。インボイス制度導入とともに適格請求書発行事業者になっておくには、2023年9月30日までの登録申請が必要です(2023年6月現在)。
さらに、課税事業者でなければ適格請求書発行事業者に登録できないので注意してください。
自身が売り手である場合、取引相手(課税事業者)から求められた際にインボイスを交付しなければなりません。交付したインボイスの写しの保存も必要です。
自身が買い手である場合、仕入税額控除を適用するために、取引相手から交付されたインボイスの保存などが原則必要になります。自身が作成した仕入明細書などのうち、インボイスに必要な項目を記載し、取引相手が了承済みのものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることも可能です。
課税事業者と免税事業者の違いは?
免税事業者は、消費税の納税が免除されている事業者を指します。消費税がかかる商品やサービスに対して消費税額を上乗せ請求することも可能であり、そのまま自社の売上として計上する流れになります。
一方、課税事業者は、消費税の納税義務を負っている事業者を指します。商品やサービスに上乗せする形で受け取った消費税から仕入時に負担した消費税額を差し引いた額の納付が必要です。
インボイス制度対策として個人事業主がすべきこと
インボイス制度対策は、課税事業者か免税事業者かによって、すべきことが異なります。
2年前の課税売上高が1,000万円を超える、もしくは前年1月1日~6月30日までの課税売上高または人件費が1,000万円を超える場合は課税事業者、いずれも1,000万円を超えない場合は免税事業者と判断できます。
事前に自社がどちらの立場にあるか確認してから、適した対策を講じるようにしましょう。
インボイス制度対策【課税事業者編】
インボイス制度の適用を早期に受けるために、課税事業者として登録申請し、可能な限り早く適格請求書発行事業者になっておきましょう。
2023年9月30日までに登録申請を行なっておけば、インボイス制度の開始と同時に適格請求書発行事業者として扱われますので、損失を生むリスクが軽減できますし、取引先とのやり取りもスムーズです。取引先に対しては事前に通知しておくことをおすすめします。
インボイス制度対策【免税事業者編】
免税事業者は適格請求書発行事業者には登録できません。取引相手にインボイスの交付を求められても発行できず、結果として、取引の減少や消費税分の値下げ交渉、新規取引獲得が困難になるなどの影響が考えられます。
自身や取引相手の状況に合わせて課税事業者になるかどうかを早期に決定する必要があります。必要に応じて税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
課税事業者になった場合どうなる?
適格請求書発行事業者に登録でき、インボイスの発行が可能になります。
ただし、これまでなかった消費税の納税義務の発生や納めるべき消費税の管理業務、インボイスの発行やインボイス発行に関わるシステム、会計システム、取引先管理システムの導入・管理業務などの負担が生じます。
現在の自社の体制によっては、人材確保や人件費などのコストがかかることも懸念されますので、早めの対応が必要です。
免税事業者のままでもいい?
免税事業者では不具合があるのかよくわからないという方も多いでしょう。免税事業者のままでも良いかどうかは、主な取引先が課税事業者か免税事業者のどちらが多いかによって異なります。
主に課税事業者と取引している場合
取引先が課税事業者、もしくはインボイス制度に沿って課税事業者になった場合、自社においてインボイスを発行できないと仕入税額控除の対象外となり、取引先に税負担を強いることになります。
取引先に課税事業者が多い場合は、取引の検討や消費税額分の値引き交渉を持ちかけられるなどが考えられるので、場合によっては適格請求書発行事業者への登録の検討も必要です。
主に免税事業者と取引している場合
免税事業者や一般消費者などが取引先として多い場合は、インボイスの発行が不要なため、免税事業者のままでも自社・取引先のどちらにも大きな影響はないと考えられます。
ただし、現在の取引先がインボイス制度に則って課税事業者へ移行した場合には、インボイス交付などの要否によって対応が必要です。
適格請求書発行事業者になるには?
消費税の課税事業者になる手続きと適格請求書発行事業者の登録事業者になる手続きを行なう必要があります。
経過措置として課税期間中(2023年10月1日〜2029年9月30日の分)に登録事業者の申請をする場合、自動的に課税事業者として扱われるので、新たに申請する必要はありません。
しかし、2024年1月1日以降に登録事業者になる手続きを行なった場合、経過措置の適用外となり、課税事業者になる手続きと登録事業者になる手続きの両方が必要になりますので注意してください(2023年6月現在)。
登録申請手続き
課税事業者として登録事業者になる場合、免税事業者が経過措置期間中に登録事業者になる場合の申請手続きは次のとおりです。
- 申請方法:e-tax、もしくは郵送
- 申請先:所轄の税務署長
- 必要書類:登録申請書(国税庁のWebサイトから入手可能)
パソコンやスマートフォンから申請書類の作成~送付まですべて完結するe-taxの利用が便利でおすすめです。マイナンバーカードなどの電子証明書、利用者識別番号、e-taxソフトが必要になりますので、事前に準備しておきましょう。
まとめ
新制度であるインボイス制度は、課税事業者・免税事業者どちらにも影響があり、それぞれ必要な対応が異なりますので、インボイス制度開始前に対策を講じる必要があります。
必ずしも適格請求書発行事業者に登録しなければ損をするという制度ではなく、それぞれに適した納税方法を取ることで、より正確に、よりスムーズに納税に関する事務処理が行なえる制度です。
インボイス制度開始までに自社の立場や制度の概要を確認し、経過措置などを有効活用して、ゆとりを持った納税計画を立てておきましょう。