「働き方改革」や「多様なライフスタイル」の実現が推し進められるなか、注目を集めているのがワークシェアリングです。
近年は日本でもワークシェアリングを導入する企業が増えていますが、そもそもワークシェアリングとはどういった仕組みなのでしょうか?
本記事では、ワークシェアリングの考え方や注目される背景、ワークシェアリングを活用するメリットなどをわかりやすく解説します。ワークシェアリングを実施する企業で働くことを検討している方はぜひご一読ください!
目次
ワークシェアリングとは?簡単に解説
ワークシェアリングとは、その名のとおり「仕事を分け合う」働き方です。業務をシェアすることで、個人の労働時間や業務負担の軽減に役立ちます。また、複数人に業務を割り振る仕組みとなっているため、雇用を創出することも可能です。
ワークシェアリングは1970~80年代にヨーロッパで生まれた仕組みですが、近年再び注目度が高まっています。
ワークシェアリングが注目される背景
ワークシェアリングに注目が集まっている理由は「働き方改革」を推進するためです。
近年は長時間労働によって、心身のバランスを崩してしまう人の数が増えています。日本でもブラック企業が社会問題になり、労働環境の改善に多くの関心が寄せられました。
個人の業務負担を軽減できるワークシェアリングは、こうした労働環境における課題解決に繋がると考えられています。また、ワークシェアリングの導入により、失業率が改善された事例も少なくありません。
ワークシェアリングのメリット
次に、ワークシェアリングのメリットを詳しく解説します。
柔軟な働き方を実現できる
ワークシェアリングは柔軟な働き方を実現できる仕組みです。
「プライベートの時間を充実させたい」「空いた時間をスキルアップに充てたい」など働く人それぞれの事情やキャリアプランに合わせた、多様なニーズに応えることが出来ます。
また、労働時間の軽減を前提としているため、子育てや介護などで忙しい人も無理なく働き続けられるでしょう。
生産性の向上
ワークシェアリングの導入は業務の生産性向上にも繋がります。
一部の人に業務負担が偏っている状況では、パフォーマンスを維持することは困難です。時間的にも精神的にも重い負担がかかってしまうことにより作業効率がダウンし、ミスを誘発する原因にもなりかねません。
一方、ワークシェアリングで業務量の偏りを無くすことが出来れば、多くの従業員が本来のパフォーマンスを発揮できるようになります。また、本当に重要な仕事に集中できるようになり、仕事の成果を出しやすくなるでしょう。
モチベーションアップ
ワークシェアリングは、従業員のモチベーションにも寄与します。
業務負担の偏りが常態化している状況では、多くの従業員が職場に対して不満を抱えてしまいます。会社や同僚に対する貢献意識も低下し、モチベーションを保つことが困難になってしまうでしょう。
ワークシェアリングによって個人の業務負担が軽減されれば、気持ちに余裕が生まれ、仕事へのモチベーションも自然とアップします。
ワークシェアリングのデメリット
上記のとおりさまざまなメリットがある一方、ワークシェアリングにはいくつかのデメリットも存在します。
業務が煩雑になりやすい
ワークシェアリングの実現のために新しい人材を雇用すると、業務が煩雑になる可能性があります。
1人あたりの業務量を減らす簡単な方法は新たな従業員を雇うことです。しかし、一度に多くの人材を雇用すると、教育や引き継ぎなどに多大なコストがかかります。時間のロスが発生するリスクもあるため、かえって業務負担が増える可能性も捨てきれません。
人事労務や経理の業務コストが増大する
ワークシェアリングを実現するためには、抜本的な制度の見直しが必要になる場合もあります。また、パート・アルバイトや在宅ワーカーなど、多様な働き方の人材が加わることで、給与計算が複雑になるケースも少なくないでしょう。
人事労務や経理の業務負担を軽減するためにも、まずはそれらの部門の人員を増やすなどの対策が求められます。
収入ダウンにつながる
ほかの従業員と仕事を分け合うことで、収入がダウンする可能性も考えられます。
勤務日数や時間が減った場合、1人あたりの給与を据え置きにできるとは限らないのが現状です。ワークシェアリングの対象業務を担う人材のみ収入が下がり、社内で給与格差が生まれてしまう場合もあるでしょう。
ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングは、以下の4種類に大別できます。
多様就業型
フレックスタイム制や在宅ワークなどの多様な働き方を導入することで、広く働き手を募る方法です。子育てや介護など、家庭の事情で就労が困難だった人材を活用しやすいというメリットがあります。
緊急対応型
社会情勢の変化などで会社の業績が悪化した際、緊急避難的に実施する方法です。従業員1人あたりの労働時間を減らすことで、コストの削減と雇用の維持を両立することができます。
雇用維持型
フルタイム勤務が困難な中高年などを短時間で雇用する方法です。「定年」や「健康不安」などの理由から、退職せざるを得なかった人々の雇用を維持できます。企業としても、既存の人材を失うことがなく、人手不足の解消につながるというメリットがあります。
雇用創出型
求職者に対して雇用を創出し、人材を増やす方法です。既存の人材を継続雇用する「雇用維持型」とは逆に、雇用を創出することに重きをおいています。正社員だけではなく、パートやアルバイトの採用枠を新設することで雇用を生み出すケースもあります。
ワークシェアリングの導入手順
ワークシェアリングは、主に以下の手順で導入されます。
STEP1 現状を把握する
まずは、会社の現状を把握するところからスタートです。
以下のような視点を持って、業務内容や一人あたりの業務量などを整理します。
- 業務負担の大きな部署はないか
- 1人に業務が集中しているところはないか
STEP2 業務の「ムダ」を洗い出す
「これまで慣習的に行われてきたが実は不要な業務」は意外と多いものです。
こうした業務の隠れた「ムダ」を洗い出すとともに、業務をまとめることはできないか、さらに効率化できる方法がないか検討します。
STEP3 ワークシェアリングに適した業務を探る
次に、ワークシェアリングができそうな業務を探ります。
ワークシェアリングには、以下のような業務が適していると考えられるでしょう。
- 複数人で分担できる業務
- マニュアルさえあれば、誰がやってもクオリティを維持できる業務
STEP4 マニュアルを作成する
ワークシェアリングを適切に運用するためには、社内マニュアルの作成が欠かせません。
また、従業員の理解を得るために、ワークシェアリングを導入する背景や目的を説明する機会を設ける場合もあります。
STEP5 評価・改善のプロセスを繰り返す
実際にワークシェアリングを運用していく過程で、定期的な効果測定を行います。
具体的には、導入前・導入後の生産性や業績などを比較するのがおすすめです。「PDCAサイクル」を回して、仕組みのブラッシュアップを図るケースが多いでしょう。
ワークシェアリングの海外事例
ワークシェアリングは諸外国でも積極的に導入されています。
ここからはワークシェアリングの海外事例をご紹介しましょう。
オランダ
オランダは、ワークシェアリング先進国の一つです。「パートタイムで正社員として働く」という就労形態が広く普及しており、企業はフルタイムとパートタイムの同一待遇を遵守する必要があります。
フランス
フランスの法定労働時間は、週35時間です。日本の法定労働時間は週42時間なので、年間で換算すると250時間以上もの差があります。また、時短勤務を導入した企業にインセンティブを用意するなど、国をあげてさまざまな取り組みが行われています。
ドイツ
ドイツでは、オランダと同様、時短勤務でも正社員として雇用されるケースが一般的です。パートタイム労働者に対する差別的取り扱いを禁止する法律も整備されており、2022年の就業者数は再統一以降で過去最多を記録しています。
アメリカ
アメリカではコロナ禍における雇用の減少を食い止めるため、ワークシェアリングが急速に普及しました。2020年の申請件数は100万件を突破し、一時解雇(レイオフ)の回避に役立ちました。
まとめ
ワークシェアリングは、業務を複数人で分担する働き方です。タスクをシェアすることで個人の業務負担が軽減されるため、生産性やモチベーションの維持につながります。
また、結果的に新たな雇用を創出可能なこともメリットです。在宅ワークなどの柔軟な働き方を実現しやすいという利点もあるため、「育児や介護などで忙しい」「地方で暮らしながら都心部の会社で働きたい」といった幅広いニーズに応えられます。